建設業財務諸表とは?通常の財務諸表の違いは?

建設業財務諸表とは
  • 貸借対照表
  • 損益計算書
  • 完成工事原価報告書
  • 株主資本等変動計算書
  • 注記表
  • 附属明細表(資本金1億円以上または負債総額200億円以上の株式会社のみ)

建設業財務諸表は主に決算変更届の際に作成し、経営事項審査にも使用されます。

経営事項審査の点数はほとんど財務諸表の数値で決まるといっても過言ではない重要な書類となります。

一般的な財務諸表は毎年税務申告の際に税理士の方が作成してくださっていると思います。(ご自身で作成されている方もまれにいらっしゃいます)

ただし、一般的な「財務諸表」と「建設業財務諸表」では異なる点があるため注意が必要です。

行政書士橋本

このページを読んでいただくと
建設業財務諸表が一般的な財務諸表と、どう違うのかわかります!

目次

建設業財務諸表の基本的なルール

建設業財務諸表を作成する際の基本的なルールについて解説します。

まず、建設業財務諸表を作成するために一般の財務諸表を用意しましょう。

建設業財務諸表の作成に必要な一般の財務諸表
  • 決算報告書
  • 勘定科目の内訳書
  • 消費税の申告書
  • 青色決算書または収支内訳書
  • 総勘定元帳

一般的な財務諸表から下記のルールに従って建設業財務諸表へと修正する必要があります。

①消費税の税抜・税込について

建設業財務諸表は原則税抜で作成します。

ただし、免税事業者の場合は税込で作成しなければなりません。

②千円単位で作成する

大企業でない限り一般的な財務諸表は一円単位で作成されていることが多いです。

建設業財務諸表では千円単位で作成しなければなりません。

端数をどのように処理するかは申請先により異なりますので手引きなどをご確認ください。

③工事に関する項目とその他の事業に関する項目を分けて記載する

建設工事の売上や売上原価とその他の事業(兼業事業といいます)の売上や売上原価は分けて記載しなければなりません。

例えば売上高で言うと建設工事の売上は「完成工事高」兼業事業の売上は「兼業事業売上高」と分けて記載します。

④一年以上動かない資産、負債は流動→固定に振り替える

流動資産、流動負債として計上しているにもかかわらず一年以上金額に変動がないものがあれば

それぞれ固定資産固定負債に振り替えなければなりません。

法人から代表への貸し付けで、いつでも返せるなどの事情があっても一年以上返済がない場合は固定資産となります。

放置していると分析機関から指摘を受ける場合があります。

⑤販売費及び一般管理費に工事原価が入っていないか確認する

工事原価には「材料費」「労務費」「経費」「外注費」の4つの項目があります。

販売費及び一般管理費の中にあるこれらの項目のうち、工事に使用した材料費や工事に関する外注費など工事に直接関係する費用があれば工事原価に振り分ける必要があります。

売上確定のタイミング

一般的な商業では商品を売ったタイミングで売上を確定させますが、

建設業では必ずしも工事が完了したタイミングで売上を確定させるわけではありません。

というのも、建設業は一般的な商業と異なり、商品(工事)の提供が完了するまでに1年以上かかることがあります。

工事が完了したタイミングで売上を確定させていると工事が完成した年度は多額の売上があり、施工中の年度は売上が全くないため

年度ごとの売上にばらつきが起きてしまいます。

このようなばらつきを解消するために建設業の売上を確定させる考え方を3つ紹介します。

当然ですが、どの考え方を採用しても最終的な売上高は変わりません。

工事進行基準

工事進行基準では、原価などから工事がどれだけ進んだかを毎年計算し、その進み具合に応じて売上を確定させます

具体的な計算方法は以下の通りです。

1. 当期の工事進行割合=当期発生した工事原価の累計÷総見積原価全体の工事に必要な原価のうち、どれだけの原価を使用したかによって工事がどれだけ進んでいるかをまず計算します。

2. 当期完成工事高=請負代金総額×当期の工事進行割合

全体の請負代金に、1で計算した当期の工事進行割合をかけることで当期にどれだけの売上があったかを計算します。

工事進行基準では工事が進む分だけ売上を計上することになるので理にかなっている計算基準と言えます。

ただし、工事進行基準を適用できるのは「成果の確実性が認められる」場合に限ります。

「成果の確実性が認められる」とは以下の3点が信頼性をもって見積り可能であるということです。

  1. 工事収益総額
  2. 工事原価総額
  3. 決算日における工事進捗度合

この3点が確定していなければ上で紹介した計算ができませんので当然といえば当然です。

また、上場企業においては2021年から「新収益認識基準」が適用になっているため工事進行基準を適用することはできません。

工事完成基準

工事完成基準では、工事が完成し引き渡しが完了した時点で売上を確定させます

単に工事が完了しただけではだめで、竣工検査から引き渡しまで完了しなければ売上に計上できません。

契約から引き渡しまで1年以上かかってしまう場合はその工事に関して売上の全くない年度と

すべての売上が計上される年度がでてきますので合理的な計算方法とはいえません。

裏を返せば、契約から引き渡しまでが事業年度中に終わる場合は特に問題のない計算方法となります。

部分完成基準

部分完成基準では、1つの契約で大量の工事を請け負う場合に完成した部分から引き渡し、売上を確定させます

部分完成基準については以下のように規定されています。

⑴一の契約により同種の建設工事等を多量に請け負ったような場合で、
その引渡量に従い工事代金を収入する旨の特約又は慣習がある場合

⑵1個の建設工事等であっても、その建設工事等の一部が完成し、
その完成した部分を引き渡した都度その割合に応じて工事代金を収入する旨の特約又は慣習がある場合

引用:国税庁

一つの契約について、工事を区切ることができ、その一区切りについて引き渡すたびに代金を受け取る場合は部分完成基準を適用することができます。

ただし、同じ工事について工事進行基準と併用することができませんので気を付けてください。

建設会計で用いる勘定科目

建設業財務諸表では特有の勘定科目や、使い方が決まっている勘定科目があります。

よく修正の指摘をされる項目でもあるため確認しておいてください。

建設業特有の勘定科目

建設業財務諸表においては通常の財務諸表では使用しない特殊な勘定科目が使用されます。

また、兼業をされている場合は売上や原価について建設業とそれ以外の事業を分けて計算しなければなりません。

建設業財務諸表に特有の勘定科目は以下のようなものがあります。

通常の勘定科目
建設財務諸表の勘定科目
  • 売掛金
  • 買掛金・未払費用
  • 前受金
  • 前渡金・仕掛品
  • 売上高
  • 売上原価
  • 売上総利益
  • 完成工事未収入金
  • 工事未払金
  • 未成工事受入金
  • 未成工事支出金
  • 完成工事高
  • 完成工事原価
  • 完成工事総利益

兼業をおこなっていないにもかかわらず「売掛金」や「買掛金」に計上されているものがあれば誤りです。

誤って使用されやすい勘定科目

以下の勘定科目は誤って使用され、不備となることが多い勘定科目です。

  • 繰延税金資産・繰延税金負債
    →「繰延税金資産」、「繰延税金負債」は税効果会計を適用していない限り使用しません。
    未払法人税等や未収還付法人税等を誤って計上しないようにしましょう。
  • 仮払税金・未払法人税等
    →「法人税、住民税及び事業税」に振替が必要です。
  • 仮払消費税・仮受消費税
    →相殺し、仮払消費税が多い場合は「未収消費税」
    仮受消費税が多い場合は「未払消費税」として計上しましょう。

建設業財務諸表では税金についてすべて清算した状態で計算する必要があります。

通常は決算締め→税金支払いとなるため決算時の財務諸表では建設業財務諸表のルール通りに計上されていないこともあります。

決算書類のどこに税金を計上しているかは一度税理士の方に相談してみてください。

「その他」について

金額の大きい科目を「その他」に計上してしまうと不備となります。

具体的には

  • 資産総額の100分の5を超える資産科目
  • 負債+純資産総額の100分の5を超える負債科目

については勘定科目を明記しなければなりません。

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